とある中世っぽい時代のとある水の豊かな平和な国の、恋をしている可愛らしいお姫様と、恋をしているたくましい騎士がいました。
そして、そんなふたりを認めたくない国王がいました。
「ば、馬鹿な! おまえたちには国の未来がかかっているというのに! 娘よ、フィアンセのチョッパーでは不満だというのか!?」
ふたりは国王に向かって言います。
「私たちの恋の何がいけないというの? 私は国を捨てることになっても、彼と一緒になります!」
「たとえ身分の違いがあれど、私は恋してしまった。守るべき国よりも、彼女のことが大切なのです」
国王は悩みました。
ふたりの恋は、どうしても成就させてはならないのです。そんなことをしてはこの国は崩壊してしまう。
しかし、自分の娘と長年仕えた近衛騎士は、もう自分のいうことなど気にしないことでしょう。ただこのふたりは、報告に来ただけなのです。
「わかった。おまえたちの結婚を認めよう。それから娘よ、冗談でも出ていくなどと言わないでおくれ。お父さんはそのたびに、寿命が1週間は縮んでしまうよ」
国王の寛大な計らいで、ふたりはめでたく、みんなに祝福されて結婚したのでした。
3ヶ月後、あぶらとり紙でオデコをポンポンしながら、結婚した可愛らしいお姫様が言いました。
「ほらこどもたち、気をつけて泳ぐんですよ。ハイハイが出来るようになったら、パパと一緒にピクニックに行きましょう。草原でおうたを歌うのは、とっても気持ちいいですよ。」
「は〜いっ!」
結婚したたくましい騎士はもう眠っています。
さらに3ヶ月後、とある中世っぽい時代のとある水の豊かな平和な国の、外れにある小さな草原に、結婚した可愛らしいお姫様と、結婚したたくましい騎士と、たくさんの子供達がいました。
季節はもう秋なので、コオロギやカエルたちが大音量で合唱していました。こどもたちは楽しそうに、合唱に参加しています。
結婚した可愛らしいお姫様は、伴侶に寄り添ってこどもたちを眺めます。その表情は聖母マリアも嫉みを覚えるほどの、可愛らしい慈愛に満ちていました。「最初は心配だったけれど、元気に育ってくれて良かった。 あのこたち、あなたにもわたしにもちゃんと似ている」
「そうだね。おや、あれはなんだい?」
そこには、少し盛り上がった地面に、棒が指してありました。まるでお墓です。
「そう、お墓。あなたと一緒になるってお父様に言うときにね、一緒になって頼んだ騎士の。彼も、身分違いの恋をしていたの」
「へぇ、それでその恋はどうなったんだい?」
「お父様は認めてくれて、結婚はしたのだけど、我慢できなかったのでしょうね。食べられてしまった。あのお墓の下にはなにもないの。奥さん、鳴きながら棒を挿していた」
「そうか……」
草原には、コオロギとカエルと、子供達の合唱が響いていました。
緑色の、カエルにもオオサンショウウオにも似たこどもたちは、輪になって歌っています。
離れて眺めている、結婚した可愛らしいお姫様には、リズムに乗って右に左に揺れるこどもたちが、綺麗な花の様に見えました。
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